フォロワーより論文増やせ?——「キム・カーダシアン指数」を計算してみた
はじめまして。藤田結子と申します。
4月からニュースレターを始めることになりました。日本と世界の最新の研究や社会の変化に関する様々な話をお伝えしたいと思っています。無料ですので、ぜひご登録ください。
第1回は、このニュースレターを始めるにあたって、本業である研究とメディア発信の兼ね合いをめぐるモヤモヤからトピックを選んでみました。それは、論文の引用数、つまり学者としての業績に比べてSNSのフォロワーが多すぎる学者を判定する(!)「キム・カーダシアン指数(K-Index)」です。自分で計算できるプロンプトも後述いたしましょう。
私の専門分野はおおまかにいうと社会学(とくにコミュニケーション分野)なのですが、私が以前、新聞で書いたコラムから「ワンオペ育児」という言葉が広まり、2017年に流行語大賞にノミネートされてから、10年ほど経ちました。ありがたいことに、その頃からメディアで発信する機会を頂くようになりました。しかし同時に、本業の研究の時間を奪われてしまうのではないかというジレンマも抱えてきました。
研究者がメディアに出ることで、キャリアにどんな影響があるのでしょうか。よく知られた「セーガン効果(The Sagan effect)」という理論があります。アメリカにカール・セーガンという天文学者がいて、1980年代にテレビ番組などで科学をわかりやすく伝えて人気を博しました。
カール・セーガンは優れた研究をしていたにもかかわらず、「メディアに出すぎる学者はろくに研究をしていないはずだ」という偏見が彼のキャリアに悪影響を及ぼしました。その一つに、全米科学アカデミーへの入会が認められなかったことが挙げられています。このように、メディア露出が学者の評価を下げてしまう可能性について議論がなされてきたのです。
そして最近では、SNS時代にこの視点をアップデートした論文が発表されています。その名も「キム・カーダシアン指数(K-Index)」です。
お騒がせセレブのキム・カーダシアンをご存じでしょうか。「特別な能力はないけれども、有名であることで有名(famous for being famous)」とよくいわれる芸能人です。ラッパー兼プロデューサーのカニエ・ウェストの元妻でもありますね。
カーダシアン指数は、「学者のSNSでの人気が、学者としての実力をどれほど上回っているか」を数値化したもの。論文がほとんど引用されていないのに、SNSでの発言が活発な学者をディスるための、強烈なジョークです。
この指標は、2014年にゲノム生物学者のニール・ホールが学術誌『Genome Biology』に発表した論文に掲載されました。タイトルの訳は、「カーダシアン指数:科学者におけるソーシャルメディア上の知名度と実績の不一致を測る指標」としておきます(論文リンク)。
ニール・ホールによると、Twitter(現X)でのフォロワー数と科学論文の引用数には一定の関係があるそうです。標準的な研究者の予測フォロワー数は「43.3 × 引用数の0.32乗」という式で表されるそうです。つまり、引用数が増えてもフォロワーの伸びは緩やかで、急激には増えないのが一般的な研究者の状況です。
そしてK-indexは、実際のフォロワー数を予測値で割った値になります。この値が5を超える人は、研究業績以上にSNSで注目を集めている人で、「サイエンス・カーダシアン」と呼ばれます。ホールはこう結論づけました。「もしあなたのK指数が5を超えているなら、今すぐSNSを閉じて、おとなしく論文を書きなさい」と。
そこで、私も恐る恐る自分のK指数を測ってみました。次のプロンプトでAIに計算してもらえます。
K-index計算のプロンプト
引用数[数値]、フォロワー数[数値]のK-indexを計算して。
式は「予測フォロワー=43.3×引用数の0.32乗」「K-index=実フォロワー/予測」
私のアカウントの存在感は薄いから大丈夫と思いつつ結果を待つと、5どころか17近くもあったのです。ホールに言わせれば、今すぐSNSを閉じて論文を書くべきです。
はい、そうします。
でもなんだか腑に落ちません。テレビによく出演するような有名な先生たちならともかくなんで私が…?おそらく、ホールのカーダシアン指数が主に想定しているのは引用数を競う慣習のある理系の分野です。私が専門とする分野、とくにエスノグラフィーを用いた調査研究は、論文と同等かそれ以上に学術書(モノグラフ)の出版が重視されます。よって、引用数のベースが異なる分野にはあてはまらない……と、強めに主張しておきたいところです。
また、社会学には「公共社会学」というジャンルがあって、学問知識をアカデミアの外の市民にわかりやすく伝えていこうという動きも活発です。メディアやSNSでの発言はその実践の一つともいえるのです。
ちなみに、日本でメディアによく出る先生方のK-IndexをClaudeやGeminiに計算させたら、数百を軽く超えてしまいました。国によってSNSの文化の違いもありそうです。みなさんも試してみてください。
キム・カーダシアンにも偉大な科学者にも程遠い私ですが、「サイエンス・カーダシアン」にならないよう、本業の研究に邁進しつつ、ほそぼそと配信していきたいと思っています。
Photo by Nathana Rebouças on Unsplash
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